福岡簡易裁判所 昭和60年(ハ)2057号 判決 1985年6月20日
大牟田市<以下省略>
原告
X
右訴訟代理人弁護士
斎藤精一
同
山口親男
福岡市<以下省略>
被告
明生貿易株式会社
右代表者代表取締役
A
右訴訟代理人弁護士
上田正博
主文
被告は原告に対し、金四〇万二四九〇円及びこれに対する昭和六〇年四月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求は棄却する。
訴訟費用はこれを四分し、その一を原告の負担、その余を被告の負担とする。
この判決の一項は原告が金一三万円の担保をたてたときは仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し、五四万七一一〇円及びこれに対する昭和六〇年四月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行の宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 原告は、昭和六〇年三月二八日被告会社の従業員Bの言葉巧みな勧誘を受け、被告との間に、「純金契約通帳ふれあい契約」という契約を結ばされた。
2 右契約とは、要するに、原告が、被告から右同日一グラム当たり二、七二四円で買受けた「純金」七〇〇グラム(代金計一九〇万六、八〇〇円、手数料計六万八、一〇〇円)を被告に、期間一年、賃料一五万一、二〇〇円の約で貸与するというものであるが、右契約が「詐欺まがい商法」として新聞に報道されているものであり、危険の多い不審な商法であることの注意を受けたため、原告は同契約の日の翌日である三月二九日、被告に対し右契約を解約する旨申し入れた。
3 しかるに被告は、右契約の条項中に、「途中解約の場合は、取引重量の三〇パーセントを違約金として支払わなければならない」旨の規定があることをたてに、右三〇パーセントに相当する五四万七、一一〇円を支払うよう原告に要求し、右要求に応じなければ「純金」も支払ったその代金も返還しないというので、原告はやむなく、翌三〇日に、右五四万七、一一〇円を被告に支払って、「純金」七〇〇グラムの引渡しを受けた。
4 しかし、前記違約金に関する定めは、契約書の中に極めて小さな字で記載されているもので、契約にさいしてその旨の告知を受けたこともなく、且つ、その率が右のとおり三〇パーセントという非常識な高率なものであるから、公序良俗に反する暴利行為で無効である。しかも、原告の場合は契約の翌日に解約を申入れたものであり、したがって契約後わずか二日間で右の三〇パーセントもの違約金を取ること自体公序良俗に反し無効であることは疑いないと思われる。
5 よって、原告は被告に対し、右違約金五四万七、一一〇円とこれに対する本訴状送達の翌日である昭和六〇年四月二三日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する答弁
1 請求原因1ないし3項は認める。
2 同4項は否認する。
第三証拠
被告提出
乙第一ないし四号証(いずれも成立認)
理由
一 請求原因1ないし3項の各事実は争いがない。
二 解約時の違約金を取引重量の三〇パーセントとする約定自体を、契約勧誘方法の詳細が明らかでなく、かつ、期間満了時あるいは解約時における金の返還を危ぶませるような具体的事情等を認め得ない本件の場合、直ちに公序良俗に反するものとまでは認め難い。
三 しかしながら、前記争いのない事実によると、本件契約が被告従業員の言葉巧みな勧誘によって締結されるに至ったものであること、そして原告が独り暮しの老女であること(この点は弁論の全趣旨により認める)、原告が契約締結のすぐ翌日に解約を申し出たのは、本件契約が新聞に「詐欺まがい商法」と報道されたことがあり危険の多い不審な商法であると注意を受けたことによること、約定があるというものの、原告は翌日直ちに解約したにも拘らず一九〇万余円の取引価格に対し五四万七一一〇円という違約金を、それもその違約金を支払わなければ現物たる金の返還が受けられないということで止むなく支払ったこと等が認められ、一方、被告は解約によって得た手数料六万八一〇〇円はそのまま取得しているわけであり、他に本件解約によって被告に如何なる損害が現実に生じるのかについて、凡そ合理的説明を見出し得ない。
右に述べたところを総合し、かつ、原告にも年約七・九三パーセントという高率(一五一、二〇〇÷一、九〇六、八〇〇≒〇・〇七九三)の利廻りに惹かれ軽卒、無分別に契約をした落度のあることを否定し難いこと等を勘案すると、本件の場合、被告が支払を受けた違約金は、取引重量の七・九三パーセント(賃料と同率)約一四万四六二〇円(五四七、一一〇÷〇・三=一、八二三、七〇〇、一、八二三、七〇〇×〇・〇七九三≒一四四、六二〇)の限度では、契約自由の原則の法理等に照らし相当の範囲内にあるものと解することができるが、右の限度を超える部分については、著しく双方間の公平を欠くことになり、約定に基く権利の行使が濫用にわたるものとして無効と解される。
四 よって、被告には、受領した違約金から右一四万四六二〇円を控除した四〇万二四九〇円とこれに対する訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和六〇年四月二三日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるものというべく、したがって原告の本訴請求は右の限度で理由あるものとしてこれを認容することとし、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 古谷健次)